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一冊のアルバムを大切にのこしていくために〜芋っ子ヨッチャンのアルバムが修復されるまで〜 第二回


第三回「末永くのこしていくために」

修復方針をもとに、明確な修復イメージが固まった、影山家の大事なアルバム。その修復の日がついにやってきました。訪れたのは、兵庫県養父市、美しい山々に囲まれたナカバヤシ兵庫工場。ここは、全国の大学や図書館から受注した書籍の合本・製本のほか、貴重な美術作品の修復作業が行われるなど、まさにナカバヤシさんの誇る技術が一同に結集した場所。今回のアルバム修復は、この現場で行われるのです。迎えてくれたのは、書籍、アルバム修復の仕事に就いて約40年の職人さん。挨拶もそこそこに、さっそく修復がスタートします。

アルバム修復の工程

まずは、すでに半分外れかかっていた本体を、表紙から剥がし、完全に分離させる。

本体の背に付いた古い糊などをカッターでこそげ落とし滑らかに整える。

見返しの和紙に軽く水を霧吹きをし、刷毛でなぜてシワをのばし、熱プレス機で押さえる。

綺麗になった見返しは表紙側ではなく本体側に貼付ける。双方をつなぐクロスをカットし糊付け。

次は表紙側に着手。表紙の内側に貼られた和紙を左右約1センチづつ剥がす。大胆かつ繊細な仕事!

剥がした状態。背表紙裏に補強のため貼られていたクラフト紙もボロボロになっていたため取り除いた。

弱った背ばりを剥がしたので、背表紙の補強のため新たに薄いボール紙を貼り直す。

机のへりで背表紙部分をこすり、丸みを付ける。微妙な力の調節が難しく、長年の感覚がモノを言う瞬間。

表紙と本体を貼付ける。つなぎめの部分は、先ほど本体に見返しを貼る際に用いたクロスを使用する。

本体と表紙の貼付けが完了した状態。つなぎめ部分の微妙なあそび(あそび、に傍点)が今回のポイント。

その後、熱した手いちょうを、背表紙脇の溝の部分に滑らせ本体を固定する。熱す温度は熱いと焦げ、低いと用をなさず、適温が難しい。

カバーとしていた和紙に書かれた文字とタイトル部分を切り取り、新たな和紙に貼付ける。


アルバム修復の工程

ついに完成! 影山家の大事なアルバムが、ここに生まれ変わった!

 とにかく何度もうならされたのは、やはり職人さんの技術。傍で見ているこちらが勝手にヒヤヒヤしてしまうような難しい局面でも、大胆かつ繊細に、迷い無く手を動かす様は、実に頼もしいものでした。また、一口に修復と言っても、ただただ元の仕様に忠実に進めるわけではなく、細かい部分に様々な工夫がなされているのです。例えば、本体と表紙を繋ぐ部分。元々は本体台紙とそのままぴったりと貼付けられていたものを、修復時には微妙に隙間を作ってあそびを持たせて貼付け(※工程10の写真を参照ください)、これからも開いて閉じて、閲覧していく動きに耐えられる用に考えられています。これらの素晴らしい技術を持ちながらも、ナカバヤシの職人さんは「とにかく私は自分の役割を全うするだけですから」とさらり。おごること無く、今日も実直に仕事を進めるのです。

 修復が完了したアルバムは、それからすぐに影山光洋さんの次男、智洋さんの元へ届けられました。「おっ! すっかり綺麗になりましたね〜」しばらくぶりに戻ってきたアルバムを手ににっこり。そして、デスクに座りしばらくページをめくって眺めます。「前はこうやってページを開くのもおっかなびっくりでしたが、これからは、また大丈夫ですね」そうして、生まれ変わったアルバムを、大事に棚へおさめました「きっと親父も喜んでくれているんじゃないかな」満足そうに頷く智洋さんの表情が印象的でした。

 影山家の大事な一冊、写真家影山光洋氏の三男ヨッチャンが生きた証を、ずっと大切にのこしていくために。そうしてはじまった今回の企画は無事に終わりを迎えました。どんなに時代が変わっても変わらないのは、人が人をいとおしく思う、愛のかたち。その結晶であるアルバムを、ずっと末永くのこしていくために。さあ、次はあなたの番です!

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