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一冊のアルバムを大切にのこしていくために〜芋っ子ヨッチャンのアルバムが修復されるまで〜 第二回


第二回「アルバムを修復するまえに大切なこと」

報道写真家、影山光洋氏が5歳で命を落とした愛する息子のため綴ったアルバム『芋っ子ヨッチャンの一生 五年二ヶ月涙の記録』。想いがこもったこの一冊は現在、光洋氏の次男、つまりヨッチャンのお兄さんである智洋さんが管理をされています。智洋さんはこれまで、このアルバムを大切に保管されてきたのですが、経年によるくたびれに加えて、光洋氏の写真展の際の展示のため何度も展示で持ち出されてきたこともあって、本体と表紙が外れかけていたり、見返しの紙にシワが入ってしまっていたり、ところどころ傷みがみられるようになってきました。それゆえ今回は、そのあたりの修復が中心となってきます。

アルバムを修復するまえに大切なこと 1

しかし一口に「修復」といっても、そのカタチは千差万別。ひとつのアルバムについて、修復したことがほとんど分からないよう手を施すこともあれば、全く別のものに作り替えることだってあり得る。全ては持ち主であるお客さんの希望次第なのです。だからこそ、修復前のやりとりが何よりも大切。ここは新しく、でもそこは残してほしい……お客さんの頭にあるイメージひとつひとつを掬い上げ、言葉にして確かめていく。すべてのさじ加減が難しく、しかしそこをおろそかにしてナカバヤシさんの修復はありえません。この世に二つとない大事な一冊を扱うのだから、お互いが心から納得するひとつの完成型を浮かべられるまで密にコミュニーションをとりあうのです。

そうした話合いを経て、次にお客さんに渡されるのが「修復方針」。完成型に向けた具体的な修復の提案がなされます。職人の意見をもとに、写真を用いつつ細かく確認していく作業。お客さんの思いを取りこぼさないように、最後の最後まで確認を重ねるその一枚からは、ナカバヤシさんのプロとしての心意気がひしひしと伝わってくるのです。

今回のアルバム修復において智洋さんの一番の希望は「父が作ったその雰囲気を、出来る限り変えることなく修復してほしい」というもの。その思いを受けて、ナカバヤシさんが出した修復方針、その一部を以下にご紹介します。

芋っ子ヨッチャンの一生 五年二ヶ月涙の記録 修復方針(抜粋)

<状態>
薄葉和紙のカバー平部分に表題紙と書き込みが有ります。背部分が欠損しており、小口側も破れています。

<修復提案>
薄葉和紙のカバーサイズ(780mm×350mm)裏打ち修復をします。





<状態>
表紙と台紙が表・裏見返紙の貼付け部分から離脱し分離しています

<修復提案>
・台紙の破損はありませんが固め直しをします。支持体を寒冷紗という素材を使用し新調します。
・見返紙は、補強・保存の為に切断し布クロス(サンリネンクロス)を使用します。仕上がりでは、ほとんど違和感はありませんのでご安心ください。

上記の修復方針を確認した影山さん。表紙に関して、修復方針では現状の和紙を生かすため裏面から和紙を貼って修復する「裏打ち」という手法が提案されていたのですが「表紙の薄葉和紙は、表題字と書き込みをのこしていただければあとは新調してもらってけっこうですよ」ということ。それ以外については「ばっちりですので、ぜひこれでお願いします!」こうして、ついに修復のイメージが固まりました。次回、いよいよナカバヤシが誇る職人がアルバム修復に着手します。

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